2019年4月から適応された「医療用医薬品の販売情報提供ガイドライン」
このガイドラインによって今まで以上に製薬会社MRの皆さんは営業活動がしにくくなったと感じていることでしょう。
「これは情報提供して良い内容なのか?」「この活動はガイドラインに反していないか?」など自問自答の日々を送っているかと思います。そんな最中、面白い本を見つけました。
それが現役医師が書いた「知ってはいけない薬のカラクリ」です。
昨今の製薬会社MRを取り巻く環境の厳しさの中で、現在の製薬会社と医師との金銭のやり取りが赤裸々に語られており、今後MR活動の参考になるコンテンツが盛り沢山です。現役MRの皆さんには是非今すぐに読んでもらいたい一冊ですが、現役MRからすると果たしてそうなのかな?と思う一面もあります。本に出てくるいくつかのコンテンツを実例から考えて参ります。
現役医師が書いた「知ってはいけない薬のカラクリ」
2019年4月に発売になった「知ってはいけない薬のカラクリ」 現役の内科医で探査ジャーナリズムNGOワセダクロニクルと医療ガバナンス研究所の共同プロジェクトであるマネーデーターベース「製薬会社と医師」に参加している谷本哲也氏が書いた本です。主に高級弁当で医師の処方内容が変わることや、講演会での講師謝礼の流れを製薬会社の思惑に沿って書かれた本です。
現役MRのみなさまや製薬会社の立場にとっては耳の痛い話も多いのですが、果たしてそのなのかな?と思わず首を傾げてしまう内容もありました。高級弁当や講演会での講師謝礼や慰労会などが処方に与える影響については下記で検証するとして、本の内容としては変化の激しい医薬品業界で生き抜くためのコンテンツが満載でもあります。ぜひ現役MRのみなさまはもちろん、製薬業界にお勤めのみなさまは一読する価値のある本だと思います。
説明会の「高級弁当」で果たして医師の処方に影響はあるのか?
この書籍にも書いてある通り、現在製薬会社MRが自由に会社の経費を使える唯一手段が「説明会時での弁当」です。2012年に接待が禁止になった製薬会社各社は、接待の代わりに病院やクリニックの説明会時に「高級弁当」を提供することに力を入れ始めます。書籍にある「高級弁当」がこれです。しかし昨今の製薬業界を取り巻く環境の変化によって製薬会社の経費も限られてきて弁当の単価も引き下げの傾向にあります。
製薬各社上限3,000円(税抜)というところが多く、私も良く高級料亭に仕出し弁当や寿司屋に寿司折弁当やうなぎ弁当を良く注文しておりました。しかし現在は2,000円前後という会社が多くなってきているように見受けられます。
たまに他社MRとも「弁当」についてお話をするのですが、普段でしたら2,000円の弁当なんて絶対に買いませんよね? 単価が引き下げられたとはいえ、2,000円は「高級弁当」と言えます。書籍にも出てきますが、製薬業界での弁当市場は年間200億円もの巨大市場です。最近は製薬会社限定の弁当注文サイトまであります。みなさまの製薬会社にもスターフェスティバルやぐるなびと言った業者が、注文欲しさに会社の会議のお昼を目掛けて「試食会」を開催しているのではないでしょうか?
確かにお店に直接注文するよりもスターフェスティバルやぐるなびを使うと時間効率的にも超便利何ですよね。指定の時間に病院やクリニックまで配達してくれるし、支払いもその場でカード決済可能ですし、直接お店に支払いに行く手間もかなり省けます。
実際に製薬会社専門の弁当サイトの営業の方に聞いたことがあるのです、この業界以外の弁当の単価は800円前後だそうです。製薬会社の2,000円の弁当は破格の値段だそうです。そんな製薬会社の説明会時の弁当提供も現在では全面禁止になる議論が進んでおります。全面禁止になると製薬会社専門の弁当サイトを持っている会社の売り上げに大きな影響を及ぼすでしょう。書籍の中でも「高級弁当の提供が医師の処方に影響を与える」とのことから何の薬の知識もない患者側の立場に立つと本来使われるはずの薬が「高級弁当」によって変えられている、という見方です。
前置きが長くなりましたが、果たして「高級弁当」が医師の処方に影響を及ぼすのでしょうか?書籍では「高級弁当提供」が医師の処方に影響を与えることが論文としても発表されているとなっております。しかし私の実際の経験では、いくら「高級弁当」を出したとしても「弁当」が処方に影響が出たという経験は全くありません。
私は過去に医師から「サンドイッチ」が食べたい!と言われたことがあり、パン屋さんに1,000円のサンドイッチをお願いしたところ「1,000円のサンドイッチなんて作れません。500円なら出来ます」と言われ、500円のサンドイッチで説明会を実施したことがあります。単価が低いですが、処方に全く影響を及ぼすどころか、500円のサンドウィッチに大いに満足してもらいました(笑)
もし「高級弁当」を提供した後に処方に影響が出たというなら、それはそのMRが処方に影響を及ぼす完璧な説明会を実施したものと思われます。弁当云々というよりは、そのMRのプレゼン力が影響しているというのが私の見方ですが、みなさまいかがでしょうか?
私は「高級弁当」を提供する説明会を実施する前に、参加する医師に「薬について知りたいこと」や「懸念点」などを聴取して医師のニーズに沿ったスライド構成でプレゼンテーションに望んでます。これで処方が伸びたなら「高級弁当」の影響ではなく、「MRのプレゼン力」が処方に影響した、と言えるのではないでしょうか。
演者(医師)の慰労会や謝礼で処方に影響はあるのか?
書籍では「高級弁当」以外に医師の処方に影響を与えるものとして「講演会での演者謝礼」や「製薬会社社内勉強会での謝礼」「講演会終了後の慰労会(接待)」が挙げられてます。
講演会での演者や座長は医師のステータスを上げます。大概地域の基幹病院の部長クラスの医師が勤めることが多いのですが、これは書籍通り私の経験でも講演会や製薬会社社内勉強会の演者を務めて頂いた医師の処方を多少増える傾向にあります。これはやはり謝礼をもらっているからではないでしょうか。
また講演会後の立食パーティで処方が増えるということはほぼあり得ません。あるとするとその後に開催さえる講師慰労会という名の会食(接待)です。製薬会社の社内勉強会後の慰労会という名の接待も同義ですが、2012年に製薬業界で接待が禁止になって以降、製薬会社の抜け道になっているのがこの「慰労会」という名の接待です。これはまだ製薬業界では認められておりますので、実施することは可能ですが、これもいずれ規制が入るでしょう。
しかしいくら演者や座長に担いでも処方が伸びないことがあります。それはその会社以上に演者や座長に担いでいる製薬会社がいる場合です。この場合は一番の会社が一番処方が多いという傾向があります。どの会社がどの医師にどのくらい謝礼を払っているのか、わかるサイトがあります。
「知ってはいけいない薬のカラクリ」の著者で現役医師である谷本哲也氏も参加しているワセダクロニクルと医療ガバナンス研究所が共同で作成した2016年の全国の医師謝礼がこちらのサイトから検索可能です↓↓
正直これが検索していると面白いです。どの医師にどの製薬会社からいくらの謝礼が支払われているのかが一目瞭然で分かります。これによってどの医師がどのメーカーに偏っているのか?医師と製薬会社との関係ども分かりますし、これから講演を頼みたい医師に謝礼の金額をいくら支払えば良いのかの目安にもなります。まず製薬会社MRの方は、ご自身の担当エリアの医師の名前を検索してみましょう!今後の営業戦略を練るのにも良い資料になるのではないでしょうか?
PMS(特定使用調査など)で医師の処方に影響はあるのか?
あと医師の処方に影響を及ぼす要素として大きいのが、新薬発売や既存薬の適応拡大の時に実施される特定使用成績調査などの「PMS」ではないでしょうか? 特に内資系大手製薬会社では俗に言われております「症例買い」と呼ばれております「PMS」を多く入れております。
これは1症例1万円から3万円がおおよその相場ですが、内資系大手製薬会社だと多い病院で100症例以上の契約を結んでいるところもあります。PMSの謝礼はクリニックの場合は個人の医師の懐に入りますが、病院では病院口座に入るところが大半となっております。「PMS」は病院にとっても格好の「収入源」となるため、「PMS病院」と呼ばれているところもあるくらいです。
PMS契約が結ばれている病院やクリニックは、その対象症例の患者がきたら第一優先でその薬剤が使われるため、必然的にその薬剤の処方量が増えます。上述した「高級弁当」や「演者謝礼」よりも「PMS」の方が確実に医師の処方に影響を与えるものかもしれません。
製薬会社MRの弁当提供や講演会後の接待で医師の処方に影響はあるのか?まとめ
「高級弁当」へのボリュームが大きくなってしまいましたが、昨今この「弁当」に関しては物議が醸されており、今後「弁当提供禁止」になる将来は近いと考えます。そうなると製薬会社MRのみなさまは次の一手を考えなければなりません。接待が禁止になってから「弁当提供」ができる説明会を多く取得して、それを武器にしていたMRの方は、今から「弁当提供禁止」になった後のことを考えましょう。
「弁当提供禁止」になったら「製品力」のない製薬会社のMRは本当に厳しいMR活動になると思います。「製品力」のある会社はたとえ「弁当提供禁止」になっても医師から必要とされますので、生き残っていけるでしょう。「弁当提供禁止」でモチベーションが低下する前に、次なる一手を今のうちから考えておきましょう!そのノウハウについては今後ブログに記載して参る予定です。
コメント