ついにノボノルディスク ファーマに続く医薬品卸の絞り込みが始まりました・・
グラクソスミスクライン(以下GSK)が医薬品卸の絞り込みを発表致しました。
GSKが取引中止を発表した卸は、メディセオ、エバルス、アトルと言ったメディパルグループの他、中北薬品、岡野薬品、マルタケ、新生堂、宮崎温仙堂商店の合計8社。
近年医薬品業界ではこれから発売する新薬の「1社流通」なるものは主流となりつつあるものの、従来から取引がある医薬品卸を突然取引中止にするなんてことは、ここ数年ではあり得ませんでした。
しかし2019年4月にインスリンで有名なノボノルディスク ファーマが日本4大医薬品卸の一つメディセオを中心とした地方の医薬品卸を含む6社との取引を削減致しました。
ノボノルディスク ファーマが業界に先立って「医薬品卸の絞り込み」を行ってからもうすぐ1年半。
外資系メーカーを中心に卸を絞り込んだことによる影響、例えば「売り上げに影響はないか?」「安定的な価格で医療機関に納入されているか?」を伺っていたところにGSKが「医薬品卸の絞り込み」を発表致しました。
しかもまたメディセオとそのグループ会社、そして中北薬品がノボノルディスク ファーマの取引削減に続き含まれていることが重要なポイントです。
今後外資系を中心に追随することが予測される製薬会社による「医薬品卸」の絞り込み。取引を切られた医薬品卸にとっても業績に与える影響は計り知れません。
そこで医薬品卸と製薬会社の両方を経験した私が「医薬品卸絞り込みの今後」と「医薬品卸側の対策」について考察致します。
「医薬品卸の絞り込み」はなぜ行われるのか?
今まで取引していた医薬品卸を製薬会社が突然リストラ・・従来そんなことはあり得ませんでした。ではなぜそんなことが起きているのでしょうか?
理由は下記の通り大きく二つあると推測します。
①物流コストの削減
②薬価防衛
この二つは全て市場環境の悪化によるものです。当ブログでも再三申し上げておりますが、2018年からの薬価制度抜本改革による薬価の大幅引き下げや新薬送出加算品目の削減、ジェネリック医薬品の国策化、そして地域フォーミュラリーの浸透などで製薬会社各社は大打撃を受けております。
製薬会社の売り上げは軒並み前同割れ。そして追い討ちをかけるように医薬品卸の談合疑惑、新型コロナ続きます。
後の章でもご紹介致しますが、特に「医薬品卸の絞り込み」の影響が大きいのが「医薬品卸の談合疑惑事件」による影響です。
談合疑惑事件発覚以降、横のつながりを持てなくなった医薬品卸各社は、自暴自棄になり医療機関への見積もり価格を下げざるを得なくなり、高額医薬品が不安定な価格で納入されるケースが相次いでいると聞きます。
厚生労働省の「平成28年度 医薬品・医療機器産業実態調査」によると、日本国内の医薬品卸売会社は106社(2016年4月1日時点)
地場の医薬品卸もありますので、それを各都道府県に当てはめると1都道府県で5・6社が見積もりに参加することになります。となると一つの椅子をめぐり熾烈な価格競争が勃発致します。
価格競争が勃発して薬の値段が下がると薬価も下がります。薬価が下がると製薬会社の収益も下がり、パイプラインが先細りの製薬会社としては大きな致命傷となります。
しかも今後薬価改定は毎年実施される方向ですので、このままですと薬価は下がる一方、製薬会社の業績も下がる一方で、新薬の開発も進まなくなる可能性もあります。
製薬会社としても取り返しが付かなくなる前に「医薬品卸の絞り込み」は、今のうちにやっておきたいところです。
「医薬品卸の絞り込み」は今後益々加速する
ノボノルディスク ファーマが「医薬品卸の絞り込み」を行ってから1年半。ついに2社目にGSKが動き出しました。
現在の医薬品卸の流通改善の「崩壊」を見ていると、今後GSKに続く「医薬品卸の絞り込み」を行う製薬会社が出てくることは間違いありません。
ここ数年、スペシャリティ医薬品を中心に、これから発売する新薬を「1社限定流通」にする製薬会社は増えてきております。そして今後これが主流になっておくでしょう。
しかし今まで取引のあった医薬品卸との関係を解消することは、得意先の処方にも及ぼす影響が少なからずあるため、簡単には行きません。
しかし上述した通り、高額医薬品を扱う製薬会社にとって「不安定な価格で売られること」は「薬価が下がる」ことに繋がり、会社の経営にも大きな影響を及ぼすため、「薬価防衛」は一番懸念される点です。
「価格崩壊」が起きている今、「医薬品卸絞り込み」を行うことによって、下手な価格競争を起こされて「薬価ダウン」するよりは、医薬品卸を絞り込んだ方がまだ会社に与える影響は軽微です。
GSKが追随したことで、2021年から始まる「毎年薬価改定」に向けて動き出す製薬会社は出てくることが予測されます。この動きは今後益々加速することが予測されます。
「医薬品卸の絞り込み」はMRにも影響を与える
MRの立場からすると「別に医薬品卸が絞り込まれたって、ウチらの仕事はDrに薬を使ってもらうこと。どこから納入されたって構わない」と思うかもしれません。
確かに今の医薬品卸MSは、院外処方が今以上に進む前に比べれば「処方元」に対する影響力は弱っているのかもしれません。
しかし全国の医療機関を見回すと、「1社もしくは2社の医薬品卸しか取引の無い医療機関」があります。その先が大口先でかつ、今回のように「切られた卸」がメインの先なら、売り上げに対する影響が大きいはずです。
もちろん会社としてはこういう事態は折込済だとは思いますが、現場のMRからすると従来から良い関係を築いていた医薬品卸MSとの関係が崩壊することも予測されます。
私は元医薬品卸MSの立場として、ノボノルディスク ファーマやGSKのように「切られた卸」だとすれば、必ず「倍返し」に転じ、切られた会社の製品を他社の同種同行品に切り替える活動をして数字と汚名返上に躍起になるでしょう。
しかしそんな作業も医薬品卸MSにとっては大きな手前です。「医薬品卸絞り込み」が現場のMRに与える影響は会社が思っている以上に計り知れません。
「医薬品卸の絞り込み」は売上だけの影響だけでは無い!
RISFAXによるとメディセオの医薬品卸売事業に占める売り上げのGSK比率は2.4%。売り上げにすると519億円にも上ります。地方の医薬品卸の売り上げが丸々吹っ飛ぶくらい巨額の売り上げ金額です。
しかし医薬品卸側からすると「医薬品卸の絞り込み」は、その製薬会社の売り上げ以外に与える影響も少なくありません。
実際にノボノルディスクファーマが「医薬品卸の絞り込み」を行った際に「切られた医薬品卸」の医療機関からの信頼は大きく失落したと聞きます。
つまり「製薬会社から取引を切られた」= 「安定供給が出来ない医薬品卸」 というレッテルを貼られて、その他製品の取引にも影響が出たとのことです。
また医療機関からしてみれば 「製薬会社から取引を切られた」 = 「何か問題がある医薬品卸」 とも見做されてしまうのです。
また現在取引を継続している製薬会社側からみてもノボノルディスク ファーマとGSKが「切った医薬品卸」は、今後「医薬品卸絞り込み」を模索している製薬会社が、絞り込みを行う際のベンチマークにもなってしまいます。
「医薬品卸の絞り込み」は切られた卸に何かしらの問題があるから切られているのは確かですが、医薬品卸の取引全体に及ぼす影響が大きのは言うまでもないありません。
製薬会社に絞り込まれないための医薬品卸側の対策
私が医薬品卸MSとして仕事をしていた時は正直「医薬品卸が製薬会社を選ぶ時代」でした。しかし今は「製薬会社が医薬品卸を選ぶ時代」となりました。
ジェネリック医薬品普及で売り上げ減少、スペシャリティやオンコロジー医薬品が台頭する時代に医薬品卸側としては今後の売り上げ確保のためにも「製薬会社に選ばれる医薬品卸」にならなければいけません。
では選ばれるためにするべきことは何をするべきなのでしょうか?
これは私が医薬品卸MSと製薬会社MR、そして本社勤務の経験から「医薬品卸」のみなさまへ三つのご提案をさせて頂きます。
①製薬会社から評価される安定的な価格
②MR減少時代にMRにとって変わる仕事をMSがしてくれる
③製薬会社に対する真摯な対応
この三つのことを忠実に行えば製薬会社から選ばれる医薬品卸になれるはずです。特に今各製薬会社が注目しているのが①の製薬会社から評価される安定的な価格です。
製薬会社が納入価格について云々言うことは出来ませんが、上述の通りあまりに安値で納入されてしまうと「薬価ダウン」に繋がります。新薬が枯渇する各製薬会社はなんとしても「薬価ダウン」は避けたいところです。
今回GSKが「医薬品卸の絞り込み」を行った背景としては①の要素が一番大きいことが推測されます。
あとはこれだけスペシャリティやオンコロジー医薬品が台頭してきてMRが減少する時代ですから、②のMRが欲しい情報をMSがとって来てくれる、と言う「製薬会社の痒いところに手が届く仕事をしてくれる」要素も大きいかと思います。
今後医薬品卸としてはこれが出来ないと製薬会社から選ばれません。ただ見積もりで価格攻勢だけの医薬品卸MSなら誰でも出来ます。これからはそんなMSは製薬会社にとって必要ではありません。
MR減少時代に、MR不足でMRが欲しい情報をくれるMSは必ず重宝されますし、今後製薬会社への貢献度によって取引する医薬品卸を選別する要素にもなり得ます。
そして③の「製薬会社に対する真摯な対応」ですが、未だにMRや製薬会社を見下す医薬品卸MSや高飛車なお偉いさんが少なくありません。
上述した通り、これだけ院外処方が普及した今「得意先の処方を動かせるMS」が少なくなり、スペシャリティやオンコロジー 医薬品が台頭してきた今、すっかりMR有意となってしまいました。
そんな時代に偉そうなMSや高飛車なお偉いさんと、かたや低姿勢なMSやお偉いさんとでは製薬会社はどちらの医薬品卸を選択するでしょうか。
製薬会社MRが有意な時代の今、製薬会社がどのような医薬品卸を選ぶかと言うと上記の三つが選別のポイントであることは言うまでもありません。
ノボノルディスク ファーマとGSKに見捨てられたメディセオとその関連会社、そして中北薬品はまさにその三つが出来ていなかった典型では無いでしょうか。
今回同じ医薬品卸が再び「切られた卸」として選ばれていると言う点は、今後医薬品卸の絞り込みを検討している会社のベンチマークになるでしょう。
今後製薬会社から見捨てられ無いためにも、また製薬会社から選ばれる医薬品卸になるために「製薬会社から評価される、選ばれる姿勢」を正すことが今後医薬品卸全体に求められることです。
GSK社員もリストラの危機に戦々恐々
2019年4月にノボノルディスク ファーマが取引卸の削減を行った際、その発表直前にリストラ(早期退職)を断行致しました。
取引卸の削減を行う理由の一つに「物流コストのカット」が挙げられますが、裏を返せば会社としての利益を守るために取引卸の削減が行われたと言うことになります。
つまり次のGSK社員に待ち受けるのは社員の削減、リストラ(早期退職)では無いかと推測致します。
実際に私も経験致しましたが、企業がリストラを行う前には必ず前兆があります。今回の取引卸の削減であったり、大型製品のジェネリック発売であったりといったことです。
GSKは過去に何度がリストラ(早期退職)を行ったことがあるようですが、それが公にはなっておりません。しかし今回の取引卸削減の件で、またリストラを断行する可能性が高くなったことは否めません。
これは製薬会社に勤める方なら誰しもが「明日は我が身」「対岸の火事では無い」と思って良いでしょう。今のうちにできるリストラ対策を講じることが大切です。
武田薬品のリストラから考える「コロナ禍でのリストラ対策」について記事を書いてますので、ぜひこちらを参考にして頂けますと幸いです↓
2020GSK メディセオとの取引停止!今なぜ医薬品卸の絞り込みが起こるのか?まとめ
ノボノルディスク ファーマの次はどこが「医薬品卸の絞り込み」を行うのか?が注目されておりましたが、ついにGSKがその舵取りを行いました。
しかも業界最大手のメディセオがまた見捨てられました。今の医薬品市場悪化の背景も踏まえて、GSKの動きを見て追随する製薬会社は外資系を中心に出てくるでしょう。
上述した通りMRの皆さんの仕事にも少なからず影響があるでしょう。ただそれ以上に影響があるのが医薬品卸です。医療機関からの信頼は失落し売り上げも減少、ただでさえMSが翻弄しているジェネリックの回収作業のように、今後は取引中止の対応に追われるでしょう。
製薬会社から選ばれる医薬品卸になるためにも、製薬会社に対し素直で謙虚に接してもらいたいものです。
コメント
私は、医薬品卸しを退職したものです。
製薬会社は、価格指示をここ数年厳しく言ってくるようになりました。大問題です。価格決定権は卸しにあります‼️
特に外資は厳しく病院から見積書提示依頼が数社にきます。
しかし、メーカーから見積書辞退を指示してきます。
病院帳合の有る卸しが有利になり、価格を高くします。
すなわち、薬価防衛になります。毎年薬価改正も問題です。新薬価格決定も問題です。卸しの利益ダウン。再編が急速に進むと考えます。
談合疑惑は、大半がメーカー関与、価格安定‼️
誠様、コメントありがとうございます。実態はそうかもしれませんね。メーカーは薬価防衛に必死ですが、談合疑惑事件以降、価格崩壊が起きてますね。どこも自暴自棄になり、流通改善はどこへやらです。
>スペシャリティやオンコロジー 医薬品が台頭してきた今、すっかりMR有意となってしまいました。
優位でしょうか。