日本ベーリンガーインゲルハイムが2019年10月より医薬品卸によってアローアンスに差をつけることが日刊薬業で発表されました。

日本ベーリンガーは否定はしているようですが、アローアンスで差をつけることによって医薬品卸の絞り込みを行うのではないか?という憶測が業界関係者の間で飛んでいるようです。
2019年4月にはノボノルディスクファーマが医薬品卸の絞り込みを行い、業界関係者を驚かせましたが、今度は日本ベーリンガーが形は違えど事実上の医薬品卸の絞り込みを開始致しました。
ノボノルディスクファーマの卸絞り込みの記事はこちら↓

業界関係者の間では「製薬会社他社も追随するのではないか?」との憶測が流れているようですが、なぜ今医薬品業界がこのような流れになってきているのでしょうか? 日本ベーリンガーの懐事情も見ながら考えて参ります。
日本ベーリンガーインゲルハイムのアローアンス廃止の内容
日刊薬業によると今回日本ベーリンガーが各医薬品卸に通達している内容は、従来販促活動の対価として日本ベーリンガーが各医薬品卸に支払っていた報奨金「アローアンス」を設定しないということです。
更に現在取引している医薬品卸によって差をつける、つまりアローアンスを支払う医薬品卸と支払わない医薬品卸が存在するというものです。
2019年4月にノボノルディスクファーマが医薬品卸の絞り込みを行った際には大手医薬品卸のメディセオを中心に全国8卸との取引を一斉に中止致しました。
しかし日本ベーリンガーインゲルハイムの場合は、取引は継続するがアローアンス(利益)はお支払いしない、という何とも強気で中途半端な姿勢とも言えます。
日本ベーリンガーインゲルハイムの苦しい内部事情
製薬会社最後の楽園と揶揄された日本ベーリンガーはブロックバスター(年間1,000億円を超える売り上げがあった薬剤)であった高血圧治療薬ミカルディスの特許切れによる大幅売り上げダウンと、今後のパイプライン枯渇によって2018年に大規模なリストラを断行致しました。
それによって2018年に500人規模が退職したと見られ、多くの優秀な若手社員が退職。
想定以上に人材が辞めすぎたため、その後プライマリー領域やオンコロジー領域のMRを中途募集しているという本末転倒な方向へ迷走しているという記事も以前書いております↓↓

日本ベーリンガーインゲルハイムのパイプラインを見ると、しばらくは既存品の適応拡大しかなく、医薬品業界を取り巻く環境の変化を鑑みても非常に厳しいことが想定されます。
しかし日本ベーリンガーインゲルハイムのMRや業界誌を見ても、ここの会社の製品力は他社競合品と比べても群を抜いて高いということがあります。
エビデンスのある薬剤が多いため、競合激しい糖尿病領域でもプレゼンスを発揮しております。特に競合激しい糖尿病治療薬SGLT2「ジャディアンス」は発売が6番手の最後にも関わらず、グローバルのエビデンスがあることでシェアナンバーワンを獲得しております。
ミカルディスの特許切れに伴う苦しい内部事情があるかもしれませんが、製品力が高い製品が多いので「医薬品卸の力に頼らなくても売れる」という自信の両方が伴って、今回の「アローアンス廃止」もしくは「医薬品卸の絞り込み」の方向に繋がっ他のではないかと私は推測してます。
もはやメーカーにとってアローアンスを支払う必要がなくなってくる?
日本ベーリンガーインゲルハイムに追随する製薬会社があるのではないかと憶測が流れておりますが、私もそのように考えてます。
その背景には製薬会社各社が最近スペシャリティー化へ方向転換してきているという背景があります。今まで高血圧治療薬や糖尿病治療薬をメインに販売してきたノバルティスファーマも近年はプライマリー商品を他社へ販売を移管し、自社ではスペシャリティー品目の扱いを増やしてます。
スペシャリティー品目担当のMRは、希少疾病や特殊な領域であることからプライマリー領域担当のMRもより高度な知識の習得が必要とされております。
従来のプライマリー品目ではアローアンスを支払うことで製薬会社の代わりに医薬品卸MSの力を使って医師へプロモーションしてもらったり、調剤薬局へ納入してもらったりしておりましたが、スペシャリティー品目はそうはいきません。
スペシャリティー品目は、医薬品卸MSの力に頼ってプロモーションや販売をするような品目では無いのです。
製薬会社各社がスペシャリティー化してきている中「医薬品卸MSの力に頼らなくても良いスペシャリティー品目にはアローアンスを支払う必要がない!」と考える製薬会社は今後増えてくるのではないか?というのが私の推測です。
アローアンス 今後の方向性は?
とは言いつつもスペシャリティー領域のMRにとって医薬品卸MSからの情報は貴重な情報源です。
会社からは競合品の情報や各病院の疾患別想定患者数は簡単に入手できる時代ではありますが、病院やクリニックとの密接な付き合いがある医薬品卸MSからの生の情報は、製薬会社MRが訪問規制ガチガチの昨今、医療機関を訪問するのに大変貴重な情報であります。
製薬会社からアローアンスが支払われないとなれば、今後医薬品卸MSからの情報が途絶する可能性は十分に考えられます。医薬品卸は病院やクリニック、調剤薬局に医薬品を安定供給する、また最新の情報提供をいち早く行う、という使命を担っておりますが、営利企業でもあります。
元医薬品卸MSの立場から言わせて頂くと、アローアンス(利益)が出ないメーカーの品目はユーザーへ話もしないし、製薬会社MRにも情報提供しようとも思いません。
従来アローアンスは、メーカーからの軒数や数字(グロス)の詰めに対して支払われてきました。
しかし製薬会社各社がスペシャリティー化する中で、今後はこのスペシャリティー品目への情報提供(俗に言う行動フィー)に対してのアローアンスが支払われる方向に転換するのではないか?と言うのが私の推測です。
ただでさえ利益率が低い医薬品卸側としても、アローアンスをもらわなければ会社として成り立たなくなると言う事情も抱えておりますので、この辺りは今後医薬品卸側から製薬会社各社に対して、「我々はMRに対してこういう情報提供ができます。なのでそれに対する対価(アローアンス)をください!」という逆提案があるかもしれませんね。
日本ベーリンガーインゲルハイムも取引卸絞り込みか? まとめ
今回の日本ベーリンガーインゲルハイムのアローアンス廃止について、日本ベーリンガーインゲルハイムサイドとしては「卸の絞り込み」は否定しているようです。
しかしアローアンスを支払わないで、ただ物だけ売ってください!では都合が良すぎます。そうは問屋は卸しません。
売っただけ赤字になる製品を扱うくらいなら、いっそのこと日本ベーリンガーインゲルハイムとの取引をやめてしまう医薬品卸も今後現れるかもしれませんね。今後の製薬会社各社と医薬品卸の対応から目が離せません。
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