未だに製薬業界に蔓延る「医薬品の併売」
いわゆる「一物二名称」と言ったり「共同販売」と言ったりするものです。「一物二名称」ならまだしも、「一物一名称」と言ったものなら、製薬会社MRにとっても、医薬品卸にとっても、強いては得意先にとっても迷惑この上ありません。
そもそもなぜこのような得意先にとって煩わしいことをするのでしょうか?私は以前所属した会社で「一物一名称」や「一物二名称」の医薬品を扱ったことがあり、良い面も悪い面もよく分かります。
また併売ではなく、1つの医薬品を二社でプロモーションをする「コ・プロモーション」も経験致しましたので、より併売のメリット・デメリットを理解しているつもりです。
そんな「併売」と「コ・プロ」の経験者である私が、未だに製薬業界に蔓延っている医薬品の「併売」のメリット・デメリットについて語って参ります。
医薬品の併売とは?
医薬品の併売とは、一つの医薬品を2社で販売すること、または商品名を変更して「1物2名称」で販売することを言います。
自動車でいうOEM(Original Equipment Manufacturer)のことで、具体的な例としてトヨタで販売している「プリウスα」はダイハツでは「メビウス」という自動車名で販売されているのと同じことですね。
昔は抗アレルギー薬を中心に併売が相次ぎました。有名なのが「アレジオン」「ジルテック」「クラリチン」これらの薬剤はそれぞれ2社から併売され、調剤薬局を中心に奪い合いが起きたのが記憶に新しいところです。
最近ですと慢性便秘治療薬の「モビコール」をEAファーマと持田製薬が、過活動膀胱治療薬の「ベオーバ」を杏林製薬とキッセイ薬品がそれぞれ「一物一名称」の併売を行っております。
併売は両社が同じ領域の同じユーザーを訪問して熾烈な獲得競争を繰り広げております。ある程度の規模の病院は両者で宣伝先を分けているようですが、それでも医薬品卸にとって、またユーザーにとっても本来一つの在庫をおくべきところに2つの在庫を置かなければいけませんので、迷惑この上ありません。
ではなぜ製薬会社各社は医薬品卸や調剤薬局に迷惑を掛けてまでも医薬品の併売を行うのでしょうか?
医薬品併売のメリット
私は過去在籍していた医薬品卸MSで「一物一名称」と「一物二名称」を、そして同じく過去に在籍した製薬会社で「一物二名称」の「併売」を経験致しました。
併売のメリットは、二社で一気に一つの医薬品をアピール出来ることにつきます。二社で一気に畳み掛けることによって早期の市場拡大を狙うことが可能になります。
あとは一社採用になったとしても、もう一社は切り替えのチャンスがあるということです。一度採用されてしまえば、あとは壮絶な採用権を巡って鍔迫り合いが発生致します。これはデメリットのところで詳しくご紹介致します。
併売は一社販売とは違って終わりがありません。その戦いは新発売からジェネリックが発売になるまで続きます。
一度採用になったとしても、ちょっと油断すると医薬品卸MSを通してもう一社の併売メーカーの薬剤に切り替えられたり、併売メーカーの攻勢にあって知らぬ間に切り替えられていた、なんてことはしょっちゅうでした。
医薬品併売のデメリット
併売はメリットよりもデメリットの方が沢山あります。デメリットを医薬卸MS、製薬会社MR、ユーザー(病院・クリニック・メインは調剤薬局)に分けてご紹介致します。
医薬卸MSのデメリット
医薬品卸MSは「併売」によって振り回されます。同じタイミングで同じ先に納入しなければいけませんし、どちらのメーカーかを「取捨選択」しなければいけませんので、うまくやらないと製薬会社MRとの関係をぶち壊すことにもなってしまいます。
あとこれは製薬会社MRも同様なのですが、常に対併売メーカー切り替えの恐怖に怯えなければならないということです。例えばAメーカーの製品をX卸から納入したとすると、必ずB卸とV卸が虎視淡々と採用権を狙ってくるからです。
さらに併売はどちらか一方が採用することが出来れば、あとはしめたもんです。その医薬品が「一物一名称」で、そこが院外処方なら調剤薬局でいくらでも切り替えが可能だからです。
一昔前までは一方の併売メーカーが手土産片手に「切替」をお願いしているのはたびたび目撃致しました。医薬品卸にとって「併売」は二社とも「目標軒数」を達成しなければいけませんので、とにかく「大変だった」というイメージしか残ってません。
そして医薬品卸泣かせなのが特に「一物一名称」の医薬品です。同じ商品名の医薬品を倉庫に二つ置かなければいけませんし、注文が着ても「どっちのメーカー?」かを確認しなければいけません。すごく手間です。
医薬品卸にとっての「併売」は手間と苦労しかなく、メリットはほとんど見当たりません。
製薬会社MRのデメリット
製薬会社MRにとっても「併売」はジェネリック発売もしくは、評価品目から外れるまで半永久的に対併売メーカーとの戦いが続きます。これがMRにとって苦痛でたまりませんでした・・・
採用になったとしても併売メーカーの攻勢に合い、気がついたら採用権が変わっていた、なんて自体はよくある事です。「一物二名称」ならまだしも「一物一名称」なら変更されやすく、気が気でありません。
処方元の開業医や病院での活動のほか、こまめに調剤薬局へ訪問しておく必要があります。「一物一名称」なら調剤薬局としては「良く来てくれるMRのところの薬を採用したい」ということは未だに言われます。
いくら「処方元」からの指示があるとはいえ「一物一名称」は簡単に切り替えられてしまいます。また「一物一名称」はMRが処方元で頑張ったとしても、併売メーカーが調剤薬局の訪問を強化していると、採用権を持っていかれることもしばしば。
とてもじゃありませんが「一物一名称」なんてやっていられません。MRにとって百害あって一利なしです。
ユーザー(病院・クリニック・メインは調剤薬局)のデメリット
ユーザーにとってもデメリットいっぱいなのが「併売」です。ユーザーと言っても調剤薬局がメインになるかと思いますが、同じ医薬品を製薬会社二社から攻勢を受ける、また数多く存在する医薬品卸MSからも両方のメーカーの医薬品の購入を迫られる・・・ これほど迷惑なことはありません。
また「一物一名称」は外見は全く一緒でもアルミのPTP包装が微妙に違うということが良くあります。これがもしお互いのメーカーの医薬品を使い回すとしたら「あれ?これ違う薬になったの?」とか場合によっては「ヒートが違うじゃないか!説明がなかったぞ!」と逆ギレする患者もいると聞いております。
患者に薬の説明をしなければいけない薬剤師の先生方からすると「併売」メーカーの医薬品の説明(PTPの違いなど)をわざわざしなければいけないのが手間でならないのです。
また処方元である医師に二社から同じ説明と採用・処方依頼を受けなければいけないことは苦痛で仕方ありません。昔は接待でどうにかなりましたが、今は何も出来ないので、ただただ訪問して懇願するしかありません。
医薬品併売の経験は今後のMRキャリアに必ず生きる!
では併売メーカーは悪なのか?というと決してそんなことはありません。私は併売メーカーに居たからこそ今の盤石な私があると思っております。
併売はユーザーや医薬品卸にとってはデメリットだらけですが、MRとして緊張感を持った日々と、決して諦めない精神力と根性は、その後のMR人生の糧になりました。
私は併売メーカーに在籍した後に転職して違う会社で一社販売を経験致しましたが、なんて楽だったことか。周りのMRを見渡しても競合他社が採用になっているとすぐに諦める、採用になった瞬間にそれで目標達成!と気を抜いてしまう、こんなMRを沢山見かけて参りました。
それに比べると「併売」メーカーのMRは、常に採用権を奪われてしまう恐怖と緊張感、決して諦めない強い精神力と根性は確実に一社販売メーカーと比べて高いと言えます。
もし現在「併売」メーカーにいらっしゃるMRの方は他社に転職する機会があると、きっとかなり楽に感じるはずです。
みんなにとって一番良いのが医薬品のコ・プロモーション!
ユーザーにとって、医薬品卸MSにとって、また製薬会社MRにとって一番ベストなパターンは一つの薬剤を二社でプロモーションし、医薬品流通もどちらか一方、MRの評価は両社で同じという「コ・プロモーション」が一番ハッピーです。
最近の「コ・プロモーション」の事例としては、高血圧治療薬「ミカルディス」のアステラス製薬・日本ベーリンガーインゲルハイム、胃潰瘍治療薬「ネキシウム」の第一三共・アストラゼネカが有名です。
同じ薬剤の紹介を二社から受けるという点では「併売」と変わらないかもしれませんが、一社がディテールした続きを連続性を持って「コ・プロモーション」だと出来るという点では、MR減少時代で情報の速さが求められる今の時代には最高のコラボレーションかと思います。
「併売」よりも「コ・プロモーション」は遥かに効率的ですし、変な競争も生まれません。併売メーカーや医薬品卸間での奪い合いや、価格での争奪戦も起きませんので、ユーザーにとっても医薬品卸にとってもMRにとってもメリットしかありません。
また「コ・プロモーション」のメリットとしては、どちらか一方のMRがだらしなくても、もう一方がしっかりしていれば実績が伴うことです。医薬品流通も一社ですので、医薬品卸MSもユーザーも混乱することもありません。
「併売」と「コ・プロモーション」の両方を経験した私としては、圧倒的に「コ・プロモーション」の方がメリットが大きいです。今後「併売」を無くして「コ・プロモーション」を取り入れた方が医薬品業界のためにもなると考えます。
未だに製薬業界に蔓延る医薬品の併売について考える まとめ
「一物一名称」であっても「一物二名称」であっても「併売」はユーザー、医薬品卸MS、製薬会社MRにとってほとんどメリットがありません。
「併売メーカー」は根性は付くかもしれませんが、販売情報ガイドラインで情報提供活動もガチガチの中、もはや根性で売る時代ではなくなりました。
今後メリットの少ない「併売」を無くし、「コ・プロモーション」が普及することを医薬品業界のためにも切に願います。
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